LIFE STYLE

Vol.14 バラが咲いた

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まもなく五月がやってくる。五月病なんていう言葉があるくらいだから、人によっては頑張った反動で無気力になってしまう時期かもしれない──五月晴れという言葉もあるけれど!

毎年のことだけれど、たとえ自分の環境が大きく変化していなくても、社会の風が吹き荒び、慌ただしく感じてしまう四月の一ヶ月間が過ぎていく。個人的には、凍っていた場所に一気に火が入ったような心と体の繁忙期だった。衝撃もありつつ、何となく地に足がつかずに自分のペースが掴めないような人も多かったんじゃないかと思う。これから先のひと月は、焦らずにじっくりと前へ進んで行けたらいいな、と思う。これを読んでくれている人にとってもそんな風に。

自然が特に美しい季節になった。ちょっと近所の公園を通り抜けても、美しいバラが咲いている。素晴らしい音楽を聴くのも良いし、美術館を訪れるのにも良い季節だな、と思う。大好きな友人たちと美味しい食事をしっかり愉しむのも良い。もちろん一人で過ごすのも。

いつでも抽象的で捉えどころない、言葉にできない気持ちを、その陰鬱な雰囲気を、五感を通して様々なものを味わうことですっかり笑い飛ばせたら良いな、と思う。そうできる季節だと思う。

自宅から表参道へ向かうとき、晴れた日には代々木公園を歩いて通り抜ける。バラ園と呼ぶのは大袈裟かもしれないけれど、花芽がしっかり保護されたバラばかり植わっている区画がある。冬にはすっかり枝だけになり、たった一枚の葉もついていない状態になるのに、毎年毎年驚くほどわんさと花を咲かせる。その中でも特に、一重咲きのバラが好きで、花弁の根元はクリーム色なのに、外側に向かってフューシャピンクへとグラデーションが展開されている。白いアーチに枝を這わせて咲いている。原種に近いのかもしれない。

品種改良が盛んに行われる花卉業界。花をできるだけ大きくしたり、フリルをたくさん波うたせてみたり、奇形とも呼べそうな目新しいものにしてみたり……。確かにそういう花も面白いけれど、個人的には、誰もがみたことあるような、そんなに目立たない、けれどどこかエレガンスを感じる花が好き。このバラみたいに。

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YASUTAKA OCHI

Flolist

Instagram : ochiyasutaka

1989年生まれ。表参道ヒルズでフラワーショップ「DILIGENCE PARLOUR」、東京ミッドタウンのイセタンサローネで「ISdF」営みながら、花や写真、文章を主軸に様々な表現活動を行なっている。店頭小売のほか、イベントや広告などの装飾も行う。