Vol. 13 HERMÈS SPLASH TOKYO へ
エルメスが開催した『SPLASH TOKYO』というイベントに行った。2023SSのメンズコレクションのショーと、エルメスの世界観を凝縮したような空間でパフォーマンスや音楽、ケータリングなどが愉しめるイベントだった。この日は久しぶりに『ナイルの庭』というエルメスのオードトワレをつけた。瑞々しくて爽やかな、花と果物の良いところが溶け合ったような香り。いつもと違った香りから「自分らしさってなんだろう。自分らしくいるって、どんな状態だろう」という疑問がふんわりと立ち上がる。
会場に到着する前に、友人の秋元剛くんから連絡が届いた。
「エルメス?」
「そう」
「やばくない?」
「わかる」
「後で合流しよ〜、独り身」
「わたしもひとり」
やりとりをしているうちに受付で合流した。他にも友人の顔がちらほら見えた。
水上競技場がランウェイになっている。僕たちは最後に近い着席だった。さっきまで会場は煩雑に人がいたのに、開演時間を過ぎる頃には全ての人が着席していて、すぐにショーが始まった。軽やかな素材とカラーパレットの服に身を包んだモデルが足早に歩いていく。水泳選手や俳優が混ざっていてキャスティングもユニークだった。最後には打ち上げ花火。
エルメスのクリエイションは、いつでも気持ちを軽くしてくれる。夢があって「いまはシリアスなことを手放して、ユーモアを持って愉しみましょう!」と翼を授けてくれる。ショーが終わると隣接した会場でライヴやコンテンポラリーダンスのパフォーマンスがあり、その通り賑やかに愉しんだ。
二日後には偶然、秋元くんとディナーの約束をしていた。丸の内のレストラン。お互いの近況をゆっくり話しながら、食事を愉しんでいると、ふいにエルメスの紙袋を渡された。中にはハンカチが入っていた——ギリシャ神話のへルメス神と兎、鳩、星の刺繍柄。誕生日プレゼントだった。
僕は驚いて「これ、なんの柄かわかる?」と訊くと「わかんない。天使?」と返ってきた。
ヘルメス神はギリシャ神話の登場人物のなかでも一風変わっていて、その敏捷さで情報伝達をしてくれる『商売や泥棒の守護神』とされている。泥棒のことも守護してしまう、善悪が曖昧で無邪気な存在である。
けれど僕にとっては、もっと特別な存在だった。星占いでは水星を表していて、それは『無意識のなかにある“自分らしさを表現したい“と願う衝動の方向性を、自分自身に知らせてくれる神様』である。
あくまでも自分らしさそのものを教えてくれる、というわけではなくて、誰もが持っている自分らしくありたいという気持ちの方向性を教えてくれる存在、ということが重要だった。
些細な偶然なのはわかっているけれど、この贈り物には驚きを隠せなかった。驚きとインスピレーション、それからやわらかい優しさが混ざったこの気持ちは確実に「自分らしい」ものだった。ぐるぐると自分自身の中だけの終着点みたいなものを探してしまっていたけれど、人との関係の中に、それも恒常的なものとして「自分らしさ」は存在するのかもしれないと思った。天使なのはあなただよ、と僕は直感した。
さらに翌日、郵便受に『エルメスの世界』という冊子が届けられていた。そこに書かれていた年間テーマは「驚きの発見」だった。あまりにもエルメスづいた1週間だったことと、思わず頷かざるを得ないそのテーマに、エルメスの底力を感じた。
YASUTAKA OCHI
Flolist
1989年生まれ。表参道ヒルズでフラワーショップ「DILIGENCE PARLOUR」、東京ミッドタウンのイセタンサローネで「ISdF」営みながら、花や写真、文章を主軸に様々な表現活動を行なっている。店頭小売のほか、イベントや広告などの装飾も行う。