vol.8 「花占い」
人と関わり合うほどに、相手のことを理解したり、思いやることは難しいことだ、という理解のほうが深まります。どちらかといえば、知れば知るほど分かり合えなさが募る感覚がします。知るほどに、”知らなかった”という事実が増えていくというか……、目には見えないことだけれど。
他人に対する感情をまったく捨て去ることができたらなんて楽だろう、と思います。同時に感情そのものが、人と人との結びつきをつくっているんだ、とまざまざと思い知らされるのですが(そしてその結びつきを愛していることも)。
花屋は、目に見えないものを、花という”象徴”を使い、組み合わせて、気持ちが伝わるようにすることが多い仕事です。物質を扱っているようで、気持ちそのものを流通させている仕事だと思います。
スタッフのなかに「占いって信じたことなくて」という人がいました。それが、根拠のないことを信じない、ということなのか、単純に今まで成功体験がない(占いが当たったことがない)、ということなのかはわからなかったのですが、そう言う姿を見て、目に見えないものを感じる/信じる力は是非養ってほしいな、と思いました。
もちろん「占いを信じろ!」と言いたいわけではありません。
植物の生態は、確かに”科学”で解き明かされていることが多いです。どうしてその色になるのか、なぜその形なのか、さらに備えている機能などなど……。名前をつけて、誰もが認められるように、手に取れるように、目に見えるようにされたもの。
けれど、ただ植物を目の前にして、そこに感じるのは”圧倒的な神秘性”です。心がときめく何か説明のできないものを、直感的に受け取ります。
その感動の前に、その瞬間だけは科学も役には立たないと思います。あくまでも一瞬、心での話です。
スタッフとテーブルに向かい合わせで座り、バラを一輪、置きました。最初は花をスタッフに向けて。それからもう一度手に取り、今度は花を自分に向けて同じ位置に置きました。
きっとこれだけで、感じるもの、立ち現れる意味性は違うと思う。言葉では言い表しにくいことでも、花は助けてくれるから。という話をしました。
YASUTAKA OCHI
Flolist
1989年生まれ。表参道ヒルズでフラワーショップ「DILIGENCE PARLOUR」、東京ミッドタウンのイセタンサローネで「ISdF」営みながら、花や写真、文章を主軸に様々な表現活動を行なっている。店頭小売のほか、イベントや広告などの装飾も行う。