LIFE STYLE

vol.5 白眼子さまさま

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この話は、読む人によっては「ぽかん」というか、何が書いてあるのか、何が書きたいのかほとんど分からないような内容になってしまうのですが、自由に書いてみたいと思います。
しかもおすすめする漫画の内容をほとんど全て書いてしまうので、興醒めさせてしまうかもしれないのですが……。

山岸涼子という漫画家がいます(敬称略)。1969年にデビューして、つい最近も連載作品がありました(2020年に完結しました)。
経歴の長さもさることながら、代表作が何作もある、稀有な漫画家先生だと思います。
その作品のひとつに「白眼子」というものがあります。ネタバレになりますが、あらすじを。

戦後すぐの北海道を舞台に、戦争孤児となった幼女(光子と名付けられます)が極寒の市場にうずくまっているところを拾われます。その家の主人(白眼子さま)は盲目の男性で、霊視をすることができました。光子は、白眼子、白眼子の姉と三人で暮らすことになり育てられてゆきます。白眼子が草木を愛でたり動物を撫でる様を見て「本当は見えてるのかな」と思うこともあり、様子が分からずに怯えていました。バカでドジ(失礼)ながら、まっすぐな光子は、怯えながらも次第に白眼子に心を寄せていくのでした。

高校生になったある日、ひょんなことから光子は親族に見つけられて引き取られます。後ろ髪を引かれながらも行った先で、白眼子たちとは連絡がうまく取れなくなってしまいます。時は過ぎて結婚し、子どもにも恵まれました。しかし漁師の夫は二度目に遭った海難事故で死亡。一度目には白眼子が光子の枕元に立ち、戻ってくる日を予言したのですが、二度目は無かった。途方に暮れながらも立ち直り、それからしばらく経って、新聞の広告で白眼子の連絡先を見つけて会いに行きました。すると白眼子には死期が迫っていて、病床に……。

短い物語なのですが、電車の中で残り数ページというところまで読み、ワッと涙が込み上げてきました。
危ない、と思いながら、ちょうど降車駅だったので降りてホームのベンチに座って、残りをめくってゆきました。
そして案の定、人目もはばからずに泣いた。ひとすじでは足りない涙が左右からこぼれてゆきました。

この連載のタイトルは「花と」です。花、出てこないじゃん。そう思いますよね。
ほとんど最後の場面。白眼子は、大人になった光子と話をしているところで優しく言うのです。──私にはお前が見えていたんだよ、と。混乱する光子に、はっきりと見えているわけではなくて、植物や動物の周りには光のような輪郭が見えるのだと言い、人では何故かお前だけに、それが見えていたんだ、だから市場でうずくまっているのを見つけることができたんだよ。と言うのです。

ここからが本題です。
光、までは見えないのですが、植物(特に花)から迫力を感じることがあります。
同じ生産地の同じ品種でも、個体によってそのチカラが違うようにすら感じます。これは元気が多い、というか……。自分で束ねる花束は、技術も基礎的なものを使っていて、その花の取り合わせ(色や形)もそこまで複雑なことはしないのですが、他の人が束ねるものと比べてやっぱり”勢い”があるように思えます。それを中心に組んでゆきます。自惚れのように捉えられるかと思うのですが、というか文字に書き起こすとものすごく恥ずかしいことを書いているような気すらしてきますが……(すごいでしょ! ということが言いたいわけではなく)。

もし花屋で花を買う機会があれば、そっとこの話を思い出して、目を凝らしてみてほしいのです。心を澄ましてみて、おそらくいちばん初めに目に飛び込んできたものがその”勢い”のある花だと思います。これは、長持ちしますよ、ということではないです。瞬発的なエネルギーがきっとそこにあるので、辻占ではないのですがインスピレーションで選んでみると、その迫力が自身の背中を押してくれることもあるかもしれません。というお話でした。
家に花があると元気が出る! とよく聞きます。
単純に、目に彩りが心地よいということもあるかと思いますが、個人的には、植物を取り巻く光の粒子がさらさらと伝わって心まで、ということなのではないかと真剣に思っています。

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YASUTAKA OCHI

Flolist

Instagram : ochiyasutaka

1989年生まれ。表参道ヒルズでフラワーショップ「DILIGENCE PARLOUR」、東京ミッドタウンのイセタンサローネで「ISdF」営みながら、花や写真、文章を主軸に様々な表現活動を行なっている。店頭小売のほか、イベントや広告などの装飾も行う。