こう寒いと温かいものが恋しくなる。ぐつぐつと湯気を上げる鍋はこの時期、ホッとする存在。そんな鍋に欠かせない主要選手が白菜だ。とはいえ、実はかなり大人になるまで白菜のことをあまり好んで食べていなかった。鍋の具材や五目あんかけ焼きそばの中に白菜の存在を見つけるとなんだか残念な気持ちがしていた。
白菜漬けも白い部分ではなく、葉っぱを選んで摘んでいたほどだ。ゴツッとした白い塊は他の具材と馴染まないし、味がないような気がしていたのだ。ところがいつの頃からか、白菜のおいしさを実感するようになった。特に寒さが増してくるこの時期の水分をたっぷり含んだものは甘味もたっぷり、生のままならシャクシャクとした歯触りが気持ちよく、煮込めばとろりととろける。あんなにつまらない存在だと思っていたことを謝りたい。
まずは生のままサラダで食べたい。4センチほどにざく切りにしてから縦に細切りにするか、もしくは大きめのひと口大に削ぎ切りにする。旨味を補う塩昆布と一緒に、塩、だし醤油と酢を少々、そこにごま油か米油を回しかけて手でざっくり和えて馴染ませる。酢は控えめにするのが白菜の甘さを引き立てるコツ。サラダと浅漬けの間のようなちょっとオツな一品が完成する。ここに火を入れたささみを裂いて加えたり、柿や金柑などのフルーツを加えてもボリュームが増す。
同じ生のまま食べる白菜として韓国の浅漬けキムチ、コッチャリがある。ちょっと甘めのキムチの素を軽く塩揉みした白菜にまぶしたものでこれがなんとも言えずにおいしい。韓国料理店のメニューに見つけたら必ず頼む大好物だ。
加熱した白菜のおいしさはとろけるような柔らかさと上品な甘さ。たっぷり食べられるものとしてお馴染みなのが一年を通して楽しんでいるピェンロー鍋だ。妹尾河童氏が広めた鍋として最近はずいぶん知られるようになった。白菜に豚バラの薄切りとぶつ切りの鶏モモ肉、春雨、戻した干し椎茸とそのもどし汁とたっぷりのごま油、以上これだけ。材料を大鍋に投入して、火が通るまでぐつぐつと煮る。干し椎茸のもどし汁とごま油が味の決め手だ。
本家は味付けさえせず、取り分けて各自で塩で調味して食べるのだが、我が家では鍋自体に塩味をつけてしまっている。シンプルな鍋だがごま油の香ばしさと素材の持ち味が渾然一体となった旨みがたっぷりで食べ飽きない。
白菜が主役の鍋でもう一品。ここ数年冬になるのを楽しみに作っているのが自家製の発酵白菜を使った酸菜白肉鍋だ。白菜をざく切りにして塩をまぶしてから、酢を少々加えてジップロックで室温において1週間ほど放置しておけば発酵白菜、酸菜が出来上がる。
摘んでみると古漬けのようなほんのり酸っぱい味わいに仕上がっているはず。ここまで発酵が進んだ後は冷蔵庫で保存するとよい。これを使って豚バラ肉と一緒に煮込んだ鍋は中国の東北地方のお馴染みの味。発酵した白菜の酸味が旨味に代わりなんとも深みのある味わいに。
そのままでも美味しいけれど、青唐辛子入りのニラだれやピーナッツバターを使ったタレに香菜を刻んで加えたもので食せばどこかエスニックな風味が病みつきになるはず。ちなみに発酵白菜は豚バラと春雨と一緒に炒め物にしても美味しい。
酸菜火鍋をお店で食べるなら、神谷町にある華都飯店に足を運ぶ。真っ赤に起こした炭で煙突型の鍋を熱して、発酵白菜と肉、牡蠣やえびなどの魚介を煮込んだ贅沢な一品で、白菜の発酵が進む冬にしか食べられない季節限定のお楽しみだ。エレガントな雰囲気の店内で食べる異国情緒溢れる煙突型の鍋は旅気分が味わえる特別な時間になってくれるはずだ。
酸菜白肉鍋
<材料>
白菜 1/2株
塩 大さじ4
酢 大さじ3
スープ
干し椎茸 5個
水 600ml
顆粒の鶏がらスープの素 大さじ1
ニンニク(スライス)1かけ分
生姜(スライス)1かけ分
具材
豚バラ肉しゃぶしゃぶ用 250g
えのき、しめじ、ヒラタケなど 適量
豆苗 1袋
豆腐 1丁
ピーナッツ香菜タレ
ピーナッツバター(粒入り)大さじ2
醤油 大さじ3
酢 大さじ2
砂糖 大さじ2
ラー油 小さじ2
パクチー 適量
青唐辛子入りニラタレ
ニラ 1/2束
青唐辛子 1本
醤油 大さじ3
酢 大さじ1
ごま油 小さじ2
<作り方>
1.酸菜を作る。白菜を2センチ幅のざく切りにして、ジッパー付き保存袋に入れ、塩を入れて軽くもみ、酢を加えて2〜3日冷蔵庫で保存する。
2.干し椎茸を分量の水で戻す。戻した椎茸はひと口大に切る。戻し汁は取っておく。
3.具材の準備をする。きのこ類は石付きを切り落とし、小房に分ける。豆苗は根を切り落とす。豆腐は食べやすく切る。タレの材料を合わせる。
4.2の戻し汁と椎茸、1の酸菜を入れて火にかけ、沸騰したらAを加えて中弱火で酸菜が柔らかくなるまで煮る。食卓に移し、具材を煮ながらタレにつけて食べる。
ariko
エディター / ライター
「CLASSY.」「VERY」などファッション誌の表紙などを担当するエディター、ライター。インスタグラムに投稿するセンスあふれる料理写真や食いしん坊記録で話題に。Instagramのフォロワーは20万人越え。著書に「arikoの食卓」シリーズ(ワニブックス)、「arikoのパン」(主婦の友社)「ありこんだて」(光文社)「おいしいルーティン」(講談社)「arikoの家和食」(講談社)に続いて、7月7日にはお菓子の本「arikoの喫茶室」がマガジンハウスから発売中。