vol.7 NIKI Hills Winery
国内外のホテルに精通したトラベルエディター、伊澤慶一の新連載「日常にもっとホテルを」。普段はレストラン、ラウンジ、バーなど、ビジターでも存分に非日常を感じられる、賢いホテルの使い方をご紹介していますが、vol.7となる今回はちょっと番外編。ランチや試飲だけでなく、宿泊もできるワイナリー。北海道余市郡仁木町にある、「NIKI Hills Winery」をご紹介します。
北海道の札幌市内から車で1時間強、新千歳空港からも1時間半ほどでアクセス可能な仁木町は、ワイン醸造用の良質なぶどうの産地として国内で熱視線を集める存在です。
仁木町とその隣にある余市町は、道内では比較的温暖な気候のため、かつてフルーツ王国と呼ばれるほどりんごやさくらんぼといった果物の生産が盛んなエリアでした。しかし、実は昼夜の寒暖差が大きく、夏場に降雨が少ないという気候は、ワイン用の良質なぶどう栽培にも最適。2011年に余市町が、2017年には仁木町がそれぞれ「ワイン特区」に認定され、果実酒の年間最低製造量を引き上げるなど規制が緩和されると、小規模ワイナリーの新規参入や移住者増加に繋がったのです。
余市町には小規模生産農家が多い一方、仁木町には大規模なワイナリーが参入。今回ここで紹介するNIKI Hills Winery(ニキ・ヒルズ・ワイナリー)も、レストランやホテル、また見学可能な醸造施設をもった複合型ワイナリーです。施設開業は2019年7月。33ヘクタール(東京ドーム7個分)もの広大な敷地に自社のぶどう畑やナチュラルガーデンも所有し、特に丘の上にあるレストランやホテル客室からの眺望が素晴らしいのが特徴です。私も国内外、何箇所もワイナリーを訪れてきましたが、ワインツーリズムが成熟しているナパバレー(アメリカ)やワイヘキ島(ニュージーランド)のワイナリーを彷彿とさせる、素晴らしい施設・環境だと感じました。
ワイナリーでは3種類のグラスワイン飲み比べ(2,200円〜)のほか、1杯単位でいただくことも可能。まず試してみて欲しいのは、なんといってもフラッグシップワイン「HATSUYUKI」でしょう。100%ケルナー種を使った辛口の白ワインで、青りんごや柑橘類のアロマと、すっきりと透明感のある酸が特徴。白を基調としたラベルは雪国北海道を連想させ、おみやげにもぴったりです。また「YUHZOME」はツヴァイゲルトレーベを100%使用。除梗後に果皮と一緒に発酵させ、木樽で約12か月熟成させることでしっかりと余韻が感じられるミディアムボディの赤ワインです。瓶内二次発酵で造った「HATSUYUKI Sparkling」もすっきりとした酸、そして繊細な泡が楽しめるスパークリングワインに仕上がっていて、個人的にはとても好みな味わい。どれをおみやげに買おうか非常に悩ましかったのですが、私は「HATSUYUKI」よりももう少し果実味やボリューム感が感じられた「HATSUYUKI Estate」を購入。栽培から醸造、ボトリングまでの全工程を自社で一貫して行ったエステートワインというだけあって、ワイナリーのプライドを感じさせる1本です。
またNIKI Hills Wineryは前述のとおりレストランを併設。店名の「Aperçu(アペルシュ)」はフランス語で「洞察・慧眼」という意味で、配られるメニューに具体的な料理名の記載はなく、代わりに奈良県出身の永井尚樹シェフによる詩によってコース料理が表現されています。これは季節や土地にインスピレーションを受けたシェフの料理を「洞察」することで、そこに込められたストーリー性や、メッセージ、コース料理である必要性を感じてとってほしいという想いが込められたもの。「四季」と「旬」を最大限表現できる「おまかせコース」のみというスタイルにも、その意気込みがひしひしと感じられます。レストランを利用する場合は前日までの予約制なので注意が必要。それぞれランチコースが5,500円(5~7品)、・ディナーコースが16,500円(8~10品)となっています。※税込・サービス料別途
例えば、ひと皿目に出てくる前菜には「初雪」というタイトルが付けられ、メニューに書かれている詩のシーンとリンクしています。タイトルの横には「鮪」「蕪」「HATSUYUKI」だけ書かれ、料理が運ばれてくるまで想像と妄想を働かせて待つ楽しさがあります。実際に運ばれてきた料理は、グリルして香ばしさを出した蕪を土台にして、上に同様にグリルした鮪、さらにべにくるり大根を重ねたもの。間にトマトを煮詰めたソース、まわりには醤油の風味をつけた白ワインベースのクリームソースを添えることで、刺身を洋風に再構築した魚料理になっています。いただく前には、ワイン「HATSUYUKI」を造る際に出るケルナーの搾りかすを、雪のようにパウダー状にして料理の上に降らせてくれる演出も。ここで紹介しすぎてネタバレするのも野暮なので、最初の1品目だけご紹介しましたが、五感のみならず想像力を含め第六感までも刺激する、非常にワクワクしたコース料理が続いてきます。
ちなみにワイナリーに宿泊すると、ディナーはこちらの写真にあるカーブ内でいただくことなります。ひんやりとし樽の香りが漂う空間は、「Aperçu(アペルシュ)」とはまた違った非日常感があり、ワイン好きにとってたまらない時間となることでしょう。また今回、私は日帰りランチの利用だったのですが、他にプライベートワイナリーツアー(60分、ひとり3,300円)も人気で、こちらはワイン醸造の工程や設備を案内してもらった後、3種類のグラスワインテイスティングもセットで楽しむことができるという大変お得な内容に。さらに季節によって「園内カートツアー」や「プライベートガーデンツアー」、「スノーシュー&テントサウナ」など、ワイナリー敷地内や周辺の大自然を満喫できる体験ツアーも充実しているのが特徴です。
ランチの後に見学させていただいたこちらの客室も、レストランと同じフロアにあるため素晴らしい眺望が楽しめます。特にこちらの「VIPヴィンヤードルーム(111号室)」と名付けられた客室は角部屋のため、2面の窓からはぶどう畑だけでなく余市湾まで一望することが可能。1泊2日、朝・夕付きで5〜10月は110,000円、11〜4月が99,000円(1部屋2名)。宿泊者特典として、ボトルワイン1本&各種ドリンク、ワイナリーツアー案内(約30分)、ネイチャー系ツアー案内(約30分、5~10月のみ)、ディナー時のワインペアリング、そしてJR仁木駅or余市駅までの送迎が付いてきます。ほかにあと2部屋、もう少しお値段を抑えた部屋もあるので、もし時間と予算が許すようでしたら、ぜひ泊まりでお出かけしてみるのがおすすめです。
今回紹介したワイナリーはこちら!
NIKI Hills Winery
KEIICHI IZAWA
トラベルエディター
旅行ガイドブック『地球の歩き方』編集部にて国内外のガイドブックを多数手がけ、2017年に独立。現在は、雑誌のホテル特集ページ制作を手がけたり、「ワーケーション」や「ステイケーション」をテーマに連載記事の執筆、また自らのInstagramアカウントで日々おすすめホテル情報を発信している。