vol.6 ヘイフンテラス(ザ・ペニンシュラ東京)
国内外のホテルに精通したトラベルエディター、伊澤慶一の新連載「日常にもっとホテルを」。レストラン、ラウンジ、バーなど、ビジターでも存分に非日常を感じられる、賢いホテルの使い方をご紹介します。vol.6では、ビジネスミーティングやご褒美ランチ、サプライズの演出など、さまざまなシチュエーションで使いたくなる広東料理「ヘイフンテラス」へ。
ヘイフンテラスの入るザ・ペニンシュラ東京が開業したのは、今から15年前の2007年9月。あれから都心には数多の外資系ラグジュアリーホテルが誕生したが、ザ・ペニンシュラ東京の存在感は霞むどころか、ますます増しているように見える。その理由をひとつに絞ることは難しいが、晴海通りと日比谷通りが交差する超一等地のロケーションがザ・ペニンシュラ東京の魅力であることに疑いの余地はない。しかも、昨今高層ビルの上層フロアに構えるホテルが多い中で、ザ・ペニンシュラ東京は一棟建て。エントランスの回転ドアを開けてロビーに足を踏み入れると、生演奏が頭上から降り注ぎ、非日常へとスイッチが切り替わる……。私がザ・ペニンシュラ東京を訪れる際、一番好きな瞬間だ。
地上24階、地下4階、客室数は47のスイートを含め314室。室内はトチの木の1枚ドアや布目下地の朱塗りカウンター、杉の網代天井など、日本の伝統を踏襲した上質な設えとなっている。今回は広東料理「ヘイフンテラス」の紹介がメインのため写真での紹介は省くが、画像上の手前側に面した客室からの眺めは筆舌に尽くし難い絶景で、皇居外苑と日比谷公園を同時に見渡すことができる。ちなみに、ザ・ペニンシュラ東京の外観は灯籠をモチーフにしている。
さて、そんなザ・ペニンシュラ東京でぜひとも知っておきたいのが、2階にあるヘイフンテラスだ。ザ・ペニンシュラ香港の星付き広東料理「スプリングムーン」の姉妹店で、日本の旬な食材を使いながら伝統的な広東料理をいただくことができる。店内は中国・江蘇省の「蘇州古典庭園」の庭園様式をテーマにした内装になっており、入り口のドアを抜けた瞬間から異国情緒が感じられる。華美すぎない伝統的な中国様式で、趣がありながら洗練された絶妙な空間になっており、友人や家族との食事はもちろん、ビジネスでの会食、特別な日のディナーなど、さまざまなシチュエーションで使えるおすすめのダイニングなのだ。
雰囲気の紹介が先になってしまったが、都内でヘイフンテラスほどおいしい中華を食べられる場所はそうそう思いつかない。そう断言できるほどのクオリティでありながら、平日の点心ランチはデザートを含め6品でひとり6,800円(税・サ込み)。ラグジュアリーホテルでの贅沢で大満足のコース料理が、自分へのご褒美ランチにちょっと奮発すれば手が届いてしまう、嬉しい価格設定なのである。前述したようにもしビジネス目的で利用するのであれば、店内には個室が4室(個室料は別途)用意されているので、そちらを事前に予約するとよい。
料理は香港が誇る名店「スプリングムーン」の姉妹店にふさわしく、どれも洗練されたものばかり。「ヘイフテラス特製 一口前菜の盛り合わせ(写真上)」を皮切りに、脳内では妄想香港旅行がスタート。アラカルトでも看板料理の金華豚のチャーシューは、適度な辛味と旨味がたっぷりのオリジナルXO醬(これがまた絶品!)に付けていただくのが正統派だ。またトップ画像の点心(この日は「黒トリュフ入り豚肉饅頭」「海老とセロリ サツマイモの蒸し餃子」「秋茸とマッシュルーム ピーナッツ入り蒸し餃子」の3点)は点心ランチコース限定の提供となっており、毎朝香港出身の点心師が精魂込めて作っているという。このように中身が透けて見えるほど薄皮の蒸し餃子を作るには、相当な熟練の技術がいるそうだ。
その後、この日のコースは「ホタテ貝と蓮根のタロイモ衣揚げ オイスターソース」「アオサとハタ団子 干し海老のスープ」、そしてメインの「対馬地鶏と湯葉 黒木耳 白菜の葱生姜蒸し」と続いた。各皿共通して、素材本来の味を引き出す優しい味付けがなされ、出汁の奥深い旨味が存分に感じられた。最後は「白魚と塩魚 秋栗の炒飯(写真上)」へ。食感のいいパラパラとした炒飯を口に運ぶと、遅れて魚の程よい塩分と栗の甘みが口内でふんわりと混ざりあい、満足感たっぷりのコースの締めにふさわしい一品だ。デザート「洋梨ムースと杏仁豆腐」を食べ終わったのは、コース開始から1時間30分ほど経った頃。平日からなんとも優雅で贅沢な気分を味わうことができた。
この日、光栄にもヘイフンテラスのシェフ、大崎 竜(写真上)さんにお会いすることができた。これまでヘイフンテラスではずっと香港から料理長を招聘してきたが、2018年に大崎さんがザ・ペニンシュラホテルズ内で香港人以外初となるエグゼクティブ チャイニーズシェフに就任、現在ではザ・ペニンシュラ東京内のルームサービスや宴会などすべての中国料理を監修しているそうだ。日本人ならではの繊細な味付けや巧みな出汁の使い方を駆使した広東料理は、一度食べたらその概念が変わるほどの感動。ぜひともヘイフンテラスに足を運んで、大崎さんが生み出す広東料理を堪能してみてほしい。
ちなみに、さらに特別な日の席を考えているのであれば、大崎さんをはじめとしたシェフの腕捌きを間近で眺めながら食事を楽しめる「シェフズテーブル」(写真上・個室料は別途)がおすすめ。厨房を通り、料理人たちの活気が直に伝わる、非日常感あふれる個室となっている。そして、さらにヘイフンテラスには1階ロビーを見下ろす2席限定隠れテーブル席(通称「バルコニー」・個室料は別途)もあり……、こちらはサプライズの演出にもぴったり。上記の席が気になる人はレストランに問い合わせの上、必ず事前予約を!
今回紹介したホテルはこちら!
ザ・ペニンシュラ東京
KEIICHI IZAWA
トラベルエディター
旅行ガイドブック『地球の歩き方』編集部にて国内外のガイドブックを多数手がけ、2017年に独立。現在は、雑誌のホテル特集ページ制作を手がけたり、「ワーケーション」や「ステイケーション」をテーマに連載記事の執筆、また自らのInstagramアカウントで日々おすすめホテル情報を発信している。