vol.4 Whisk(メズム東京、オートグラフ コレクション)
国内外のホテルに精通したトラベルエディター、伊澤慶一の新連載「日常にもっとホテルを」。レストラン、ラウンジ、バーなど、ビジターでも存分に非日常を感じられる、賢いホテルの使い方をご紹介します。vol.4は2020年4月に東京・竹芝に開業したメズム東京、オートグラフ コレクション(以下、メズム東京)のバー&ラウンジ「Whisk(ウィスク)」へ。
今回紹介するウィスクは、クリエイターや編集者の方と打ち合わせをする際に使わせていただくことの多いバー&ラウンジだ。理由はシンプル。ここには感性を刺激してくれる内装や眺望、サウンド、そしてのちほど詳しく紹介するが五感を魅了するカクテルがあり、ウィスクでミーティングすると何かいい企画やアイデアが生まれそうな予感がするからだ。まあ実際にここで名企画が誕生したかどうかは置いておいて、メズム東京というホテルは「TOKYO WAVES」をコンセプトにしており、タレント(ホテルスタッフ)が着用するオリジナルユニフォームがヨウジヤマモト社とコラボしたジェンダーレスな装いだったり、ロビーのデジタルアートがクリエイティブカンパニー「1→10(ワントゥーテン), Inc.」によるインスタレーションだったりと、東京の“今”の波長が感じられるホテルであるのは間違いない。
ウィスクがあるのは、そんなメズム東京のロビーフロア、16階。開放的な天井高で、中央にはヴィンテージのグランドピアノが置かれ、アーティストによる生ライブも毎晩行われている。窓の外に目を移すと、眼下に浜離宮恩賜庭園や隅田川が一望でき、目線をあげるとスカイツリーも見渡せる。既に十分に魅了されるバー&ラウンジなのだが、お気に入りの理由はこれだけではない。ウィスクは「芸術家(アーティスト)のアトリエ」をコンセプトにしており、世界の名画をモチーフにしたオリジナルのミクソロジーカクテルやアフタヌーンティーがとにかく秀逸。世界中の有名絵画が“飲むアート”となって一堂に会する、そんなバー&ラウンジなのだ。
写真左、パレットの上に絵具を再現したようなカクテルはジンをベースにした「Argenteuil(アルジャントゥイユ)」。ルノワールの絵画『アルジャントゥイユの庭で制作中のモネ』の世界を表現している。また右手の植木鉢のようなグラスのカクテル「Sunflower(サンフラワー)」は、ゴッホの油彩『ひまわり』をモチーフにしたテキーラベースのカクテルとなっている。ひまわりの部分は、ドライパイナップルで見事に再現。こんな具合で、古今東西の名画を遊び心たっぷりのオリジナルカクテルで提供してくれるのだ。
ちなみに冒頭で紹介した写真のカクテルは、ルネ・マグリットの油彩画『人の子(The Son of Man)』を題材にした「Man(マン)」(写真左)と、ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』を描いた「Venus(ヴィーナス)」(写真右)。「Venus」は宝箱に入れられ、開けると華やかな香りのスモークの中から実際の絵画のように貝殻の上に乗った状態で登場するなど、その提供の仕方にも非常にこだわりが詰まっている。
絵画をモチーフにしているのはカクテルだけではない。こちらで提供している新感覚アフタヌーンティー「アフタヌーン・エキシビジョン」の第6弾『パール(Pearl)』は、オランダの画家フェルメールの代表作『真珠の耳飾りの少女』が題材。ゴーダチーズを使った家庭料理パンネクーケンや、セモリナ粉と牛乳を煮詰めたデザート菓子セモリナプディングなど、フェルメールが生きた17世紀のオランダをスイーツ&セイボリーで表現している。
メインのケーキでは、少女のターバンをクレープ生地で見事に再現。その横の真珠は手作りの飴細工というこだわりだ。これまで第1弾から順にサルバドール・ダリ、フェルメール、レオナルド・ダ・ヴィンチ、マネ、モネと展開してきたが、特にアンコールのリクエストが多かったフェルメールが再登場となったという。8月はほぼ毎日、満席で予約が取れないという人気ぶり。引き続き予約しづらい状況が続いているが、10月末まで提供しているのでぜひトライしてみてほしい。
そもそもWhisk(ウィスク)とは、英語で「混ぜる」の意味。伝統と革新、刺激と趣、動と静。相反するものが混ざり合い、新しく生まれたのがこれらのミクソロジーカクテルであり、アフタヌーン・エキシビジョンだ。私は東京のクラシックなホテルで、伝説的なカクテルやアフタヌーンティーをいただくのも大好きだが、メズム東京は斬新なコンセプトとサービスで、訪れるたびに新しい感動と発見をもたらしてくれるホテル。
それが冒頭でも述べた“感性の刺激”に繋がってくるのだと思う。ちなみに上で紹介した4種のカクテルは、すべてモクテル(ノンアルコールでの提供)対応が可能。打ち合わせだからといってノンアルコールにしたいわけではないが、車で訪れた際などにはもちろんモクテルしか飲めないので、ありがたい限りである。
同じく16階、ウィスクのお隣にあるメインダイニング「シェフズ・シアター」では、現在『The Wonderful Wizard of Oz(邦題:オズの魔法使い)』の原作小説の世界観を表現したランチ&ディナープログラムを提供。物語の前半部分をランチ、後半部分をディナーで表現していて、どちらも食べると物語が完成する構成になっている。
写真は物語の冒頭部分、竜巻によってドロシーと子犬のトトが不思議の国オズへ飛ばされるシーンを再現したアミューズブッシュ。ヨーグルトのソースがかかったトラウトサーモンの上に、竜巻のかたちをしたプレッツェルが添えられ、強風で吹き飛ぶ香草が鮮やかに散りばめられている。何がすごいって、見た目の感動はもちろんのこと、すべて料理として実際においしかったということ。
ランチでは、森の中でかかしやきこりに出会うシーンや、ドロシーたちがエメラルドの都にたどり着くシーンなども登場。当初2022年9月30日までの予定だったが、こちらも予約満席が続くほど好評を博したため10月半ばまで延長となっている。
バー&ラウンジの「ウィスク」、メインダイニングの「シェフズ・シアター」、どちらもイチオシのメズム東京。ちなみにホテルとしては、日本で初めて全客室にデジタルピアノを導入するという珍しい試みでも話題になった。私も以前宿泊した際、部屋に置かれたカシオのデジタルピアノ「Privia」を触ってみたが、これが意外と夢中になって演奏してしまい、ここでもしっかり五感が刺激された。部屋のアメニティやお菓子などもオリジナリティに溢れていて、ホテル全体でしっかりコンセプトが統一されているのが感じられた。ぜひビジターとしてだけでなく、宿泊やレストラン利用のゲストとしてもメズム東京の放つTOKYO WAVESを感じてみて欲しい。
今回紹介したホテルはこちら!
メズム東京、オートグラフ コレクション
KEIICHI IZAWA
トラベルエディター
旅行ガイドブック『地球の歩き方』編集部にて国内外のガイドブックを多数手がけ、2017年に独立。現在は、雑誌のホテル特集ページ制作を手がけたり、「ワーケーション」や「ステイケーション」をテーマに連載記事の執筆、また自らのInstagramアカウントで日々おすすめホテル情報を発信している。