夏の食卓の渋い脇役ミョウガ
子どもの頃は食べられなかったけれど、大人になってから大好きになったもの。それが今回ご紹介する茗荷だ。シャキシャキとした歯応えで、生姜とも紫蘇とも違う青っぽい爽やかさが食欲をそそり、夏の暑さを一瞬忘れさせてくれる。夏場の薬味に欠かせないというか主役と言える茗荷の魅力をお伝えしたいと思う。
鼻にふっと香る青っぽい、ちょっと薬っぽい匂いが苦手で子供の頃は苦手だった茗荷も我慢して食べ続けた結果かある年齢を境になくてはならいほどの大好物に。「茗荷を食べすぎると物忘れする」ということわざも美味しくて食べすぎてしまうためのものではないかということが今ではわかるような気がする。
一年中スーパーで買うことはできるけれど、夏が茗荷の旬。自宅の庭の日陰にドクダミと一緒にひっそりと生い茂っていたのを思い出す。母に言われて、ポキんと必要な数だけむしってはそうめんや冷奴、卵豆腐の入った吸い物などに使われるのを恨めしく思っていたのが今では懐かしい。
時が経った今では、スーパーで大入りの袋を見つけるとホクホクと手に取ってしまうから変われば変わるほどだ。茗荷は冷蔵庫でそのまま保存すると意外に早く傷んでしまう。買ってきたらすぐに刻んで下拵えしてしまう。
夏場に便利に使えるのが万能ネギとカイワレと一緒に刻んでさっと水にさらしてからしっかりと水気を切ったミックス薬味。この3種類だと三味薬味、さらに余力があればここに生姜と大葉を刻んだものを加えた五味薬味を作っておくと薬味が必要な時に気軽に使えて本当に重宝する。冷蔵庫で4〜5日は保存できるのでそれぞれを1パックずつ刻んでたっぷり作るのをお勧めする。
用途としては冷奴や素麺はもちろん、豚しゃぶや焼き魚、サラダに。大根おろしに混ぜて唐揚げやお肉のソテーなどにも。どんな料理にも合うのでたっぷり作ってもあっという間になくなってしまうほどだ。
茗荷単体としては10秒ほど湯通ししたものを甘酢につけたものもお弁当や焼き魚のお供にピッタリ。一度湯通しした茗荷は色が抜けてしまうが、砂糖を多めにだし汁で割った甘酢に漬けるとパッと綺麗なピンクが戻ってきて目にも鮮やかな仕上がりになる。
茗荷だけを刻んだものとアボカドのナムルもおつまみにお勧め。美味しい塩と釜揚げしらすをかけるとねっとりとしたアボカドとシャキシャキとした茗荷の食感のコントラストが楽しくて誰に出しても好評な一皿になってくれる。釜揚げしらすの代わりに塩昆布に変えても乙な味を楽しめる。
たっぷり刻んだ茗荷を炊き上がったご飯に散らした茗荷ご飯もこの時期に何度も作る大好きな味。元は季節の和食が美味しい旅館の夕食に出たものがあまりに美味しくて家でも作るように。細かく切った油揚げと梅干しに白だしと酒を加えてだし炊きにしたご飯の炊き上がりにたっぷり散らしてふんわりと混ぜるとたまらない美味しさ。人肌に冷めたものをおにぎりにしても抜群だ。
食欲が落ちるこれからの季節、爽やかな風味で食卓にアクセントをつけてくれる渋い脇役を存分に楽しみ尽くしたいと思う。
しらすと茗荷のあえもの
<材料>
釜揚げしらす 50g
茗荷 2個
ごま油 小さじ1
塩 少々
白炒りごま 適量
黒七味 少々
<作り方>
1.茗荷は縦ふたつに切り、繊維を断つように薄切りにし、水にさっとさらして水気を切る。
2.ボウルにしらすと茗荷、ごま油、塩を入れてさっとあえて器に盛り、炒りごまと黒七味をふる。
茗荷ごはん
<材料>
米 2合
茗荷 4〜5個
油揚げ 1/2枚
梅干し 2個
水 350ml
白だし 大さじ1
酒 大さじ1
<作り方>
1.米は洗って30分浸水させてからザルにあげる。
2.油揚げはみじん切りにする。
3.鍋に米を入れ、水、白だし、酒を入れて、油揚げと梅干しを乗せる。蓋をして火にかけ、中火の火加減で沸騰したら弱火にして12分炊く。その後5分蒸らす。
4.米を炊いている間に茗荷は縦ふたつに切り、繊を断つように薄切りにし、さっと水にさらしてからしっかりと水気を取る。
5.蒸らし終わったご飯に4の茗荷を散らす。しゃもじでご飯を潰さないように軽く混ぜて器に盛る。
ariko
エディター / ライター
「CLASSY.」「VERY」などファッション誌の表紙などを担当するエディター、ライター。インスタグラムに投稿するセンスあふれる料理写真や食いしん坊記録で話題に。Instagramのフォロワーは20万人越え。著書に「arikoの食卓」シリーズ(ワニブックス)、「arikoのパン」(主婦の友社)「ありこんだて」(光文社)「おいしいルーティン」(講談社)「arikoの家和食」(講談社)に続いて、7月7日にはお菓子の本「arikoの喫茶室」がマガジンハウスから発売中。