マイヤーマキシムエスエスエッグパン18㎝
それまで何となく作っていたものをレシピや道具を改めて見直してみたら劇的に美味しくなったという経験をしたことはありませんか。実は私自身、ちょっと前にちょうどそんな体験をした。それは卵焼き。息子が中高生時代にはお弁当に入れるためにしょっちゅう作っていたし、時折食べたくなって作っていたのだが、思い描いている理想の卵焼きとはなんだかどこか違う。卵焼きというと甘いもの、逆に砂糖を使わない塩味のもの、だし巻きと言われるような甘さは控えめでお出汁がたっぷりのものなどなど食べる人の出身地や好みでさまざまなタイプがある。ちなみに私が好きなのはお蕎麦屋さんで出てくるようなしっかり甘くてたっぷりとお出汁を含んだやつ。それを自分で焼き上げるのはなかなかのプレッシャーだった。実家の母が作っていたのを見よう見まねで焼いていたのだが、はっきりとしたレシピがないのでうまくいく時と行かない時の差が出てしまっていた。
それを改めて見直したのは料理教室で私の好みの卵焼きの作り方を教えてもらったからだ。料理教室ではよく使い込んだ立派な銅製の卵焼き器を使っていたのだが、一朝一夕ではなかなか使いこなせない。そこで登場するのが今回ご紹介する焦げ付きにくいフッ素樹脂加工を施した卵焼き器だ。圧力鍋の仕事を通してマイヤーのフライパンやグリルパンを使うようになったのだが、卵焼き器もとても使いやすいと聞いて試してみたらこれがびっくりするほど上手く焼ける。まずその形にちょっとした違いが。定番の長方形なのだが、これまでの真四角ではなく、持ち手と反対側の一片に微妙なカーブが付けてある。卵焼き器に卵液を流し入れたら先から手前に巻き込んでいく作業がこのカーブによってとてもスムーズに巻くことができる。
マイヤーというと主にアメリカで製造されているのだが、聞けばこの卵焼き器は日本で作っているという。このカーブは日本の町工場の卓越した技術を取り入れているそう。日本料理の卵焼きだからそれを作る道具は日本ならではの技術を取り入れるのは当然だという。蓄熱性がよく熱ムラのないオールステンレス製を使って内側には焦げ付けにくいフッ素樹脂加工を施し、そこに成形しやすい絶妙のカーブがついた独特のフォルムを組み合わせた日米のハイブリットがこの卵焼き器なのだ。これを使うと出汁の入った柔らかな卵液も上手に扱うことができるので慌てることがなくなった。火加減は日寄らずに終始中火で焼き上げるのがふっくら仕上げるコツだ。樹脂加工といえども、卵液を流す前にはしっかり油を補充するのも焦げ付かせないポイント。思い切り良く焼き上げることができれば少し不恰好でも巻きすやアルミホイルで包んでしばらく置いておけばきれいな形に仕上がる。口に含めばほんのり甘いお出汁がジュワッと広がるふっくら柔らかな卵焼きはまさに理想の一品。それが安定してできるようになると現金なものでどんどん焼きたくなる。
シンプルな卵焼きの芯に明太子や鰻を巻き込んだもの、青ネギや三つ葉を刻んで混ぜ込んだ色鮮やかなものと色々挑戦したくなる。コロナでリモートが増えた息子や夫にも置き弁を作る機会も増えた。茶色のおかずが多くなりがちな弁当箱の中で目を引く優しい黄色の卵焼きはお弁当のスタメンだ。卵を増やして大きく焼いたものにたっぷりの大根おろしを添えたものは和風の献立の時のおつまみとして大人気。作る回数を重ねるほどに上手になる卵焼き、改めて見直してみるのもブラッシュアップできる良い機会なのではないかと思う。
ほんのり甘いだし巻き玉子
<材料>
卵 4個
A
水 80ml
砂糖 大さじ2
白だし 小さじ2
薄口しょうゆ 小さじ1
米油(太白ごま油)適量
<作り方>
1.ボウルに卵を割り入れ、白身を切るように箸でほぐし、Aを加えてさらに溶き混ぜる。
2.じっくりよく温めた卵焼き器に油小さじ1を入れて全体に馴染ませる。卵液を流してジュッと音がするくらいに油の温度が上がったら、中火にして一回目の卵液を1/4ほど流し入れ、卵焼き器を傾けて全体に広げる。
3.ふちが固まり始め、半熟になってきたら卵焼き器の手前に巻きながら寄せ、空いた部分に油を数滴落とし、卵焼き器の中の卵を持ち上げて油を流し入れ、卵を奥に滑らせる。
4.鍋の空いた部分にまた油を数滴落としてのばし、残りの卵液の1/3ほどを流し入れ、奥の卵を菜箸で持ち上げて、卵の下にも卵液を流し込む。ひと呼吸置いてから、菜箸を横から差し入れて卵を手前に折りたたむように巻いていく。これを繰り返し、卵液がなくなるまで全体で4〜5回焼き重ねる。菜箸が難しければフライ返しを使っても。
5.焼き上がったら、巻きすかアルミホイルの上に取り出し、形を整えて粗熱をとる。好みで大根おろしを添える。
ariko
エディター / ライター
「CLASSY.」「VERY」などファッション誌の表紙などを担当するエディター、ライター。インスタグラムに投稿するセンスあふれる料理写真や食いしん坊記録で話題に。Instagramのフォロワーは20万人越え。著書に「arikoの食卓」シリーズ(ワニブックス)、「arikoのパン」(主婦の友社)「ありこんだて」(光文社)「おいしいルーティン」(講談社)「arikoの家和食」(講談社)に続いて、7月7日にはお菓子の本「arikoの喫茶室」がマガジンハウスから発売中。